芸大・美大の入試のための勉強って、どんな課題を練習するのでしょう。
六角舎アートスクールでの授業の流れを織り交ぜながら解説していきます。
●実技練習のはじめは、まず鉛筆によるデッサンです。卓上の静物モチーフを観察しながらそれを画用紙上に再現していきます。(すでに志望校がはっきり決まっており、木炭による石膏デッサンが必要な人には最初からそれに取り組んでもらうこともあります。)
目の前にあるものをそのまま写しとっていく・・・と言えば話は簡単ですが、その過程で様々なことを考え、確認し、工夫し、トライ&エラーの積み重ねによって一枚の絵にしていきます。
モチーフをどのように組み合わせるのか、
それをどのように四角い画用紙の枠内に収めるのか、
モチーフの形や立体的な有り様をどのように掴むのか、
カラーで見えている現実の様相をどのように鉛筆の(白黒の)トーンに変換していくのか、
3次元の空間を2次元の平面上に表現しようとする時どのようなことに注意しなければならないのか、
モノの表面の様々なテクスチュアの違いをどのように描き分ければいいのか、
モチーフを照明している光をどのように描くのか、
そのモノの硬さ、柔らかさ、軽さ、重さや、確かな存在を感じられる絵になっているかどうか・・・など。
10〜14種類の鉛筆と、練りゴム、消しゴムを適切に使い、画用紙の肌理を利用しながら丁寧にモチーフを観察しつつタッチを重ねていきます。最終的には一枚のデッサンを書き上げていくことの中に、描き手が何をどのように観、何を感じ、どのような態度でモチーフ(現実)に向き合い、絵を描くということに取り組んだのかが現れてきます。
●また、デッサンに取り組む中で集中力が身につきます。初心者のうちは、3時間じっと座ってモチーフを見続けて絵を描くことに苦痛を感じる人も、デッサンの練習を続けていくうちに集中力や「絵を描く体力」が身についてきて、3時間を超える時間を必要とする課題にも余裕で対応できるようになってきます。(例えば京都芸大のデッサンは4時間課題ですし、他の国公立大のデッサンでは休憩を挟みつつ6時間以上を必要とする課題もあります。)
そのようにデッサン課題を課すことによって、大学や高校に入学後、作品を作る上で必要な基本的な技術や感受性、集中力、取り組みへの真摯さや柔軟性などの姿勢までも見ることができるので、入試で多く採用されているのだと思います。
入試のためだけばかりではなく、デッサンを練習することによって、(わかりやすい例だけでも)物事を構成する力、立体や空間を把握する力、頭の中にあるイメージを描き表す力などが身につきます。また、そうした直接役立つこと以外にも、自分が見えているものを描き表すスキルを持つことによって自分の内面の自信や将来の様々な活動の可能性へと繋がってきます。ですから六角舎アートスクールでもデッサンの練習を極めて大切なものと位置づけ、受講生の作品のレベルアップのための指導方法の工夫や講師自身のスキルアップを不断に行なっています。
●授業の進め方としては、まずは基礎デッサンとして直方体、円筒、球体の「基本形態」のデッサンを課題の説明を踏まえて一通り実習してもらった後、その応用モチーフを様々に組み合わせながら練習していきます。それぞれのモチーフには注意すべきポイントがあり、それらを踏まえて取り組んでもらいます。
モチーフが作る空間を捉えて画面を作りあげる構成感覚、鉛筆の美しいトーンを出しながら描き上げていく力、そして何より空間全体と部分の関係性を見ながら描き進めていく力などを確立するためにはやはり一定の練習量が必要で、比較的簡単な組み合わせのものから始め、最終的には志望校の入試課題を想定した複雑なものまで段階的に練習していきます。
受講生の皆さんがデッサンに取り組んでいる最中は、講師は適時見廻ってアドヴァイスしたり注意点を説明していきます。また時には、講師が受講生と席をかわってデッサンに手を入れながら説明して行くこともあります。言葉のみで説明するよりも、実際に描いているところを見てもらうことによって、デッサンの勘どころや、タッチを入れて行くときの感覚や呼吸などをよりわかりやすく理解してもらうためです。
●デッサンが描き上がったら張り出して講評をします。デッサンに限らず、制作した作品は必ず一点一点講評していきます。講評は制作と同様に重要で、自分の制作したものを距離を置くことで客観的に見て、冷静に良い点や改善すべき点などを講師の説明を参考にしながら判断していく時間です。また、他の受講生の制作した作品を見ることによって、何倍にも経験値が高まり、課題のみならず美術・デザインへの知識や教養が深まります。これはアートスクールで他の受講生と一緒に制作する利点です。ですから自分の作品だけでなく、他の受講生の作品の講評にも自分の作品と同様の意識を持って耳を傾けていただければと思います。
制作と講評、この積み重ねによって実力を育て、センスを磨きます。
●大学入試の色彩の課題には大まかに分類して以下のような形式があります。(「」の中は当アートスクールでの呼び方です。)
a)シンプルな幾何形態などを構成して、テーマに基づきベタ塗りによって彩色するもの。「幾何構成」
b)与えられたテーマや条件を踏まえて自由に発想し、色彩によって表現するもの。「イメージ表現」
c)具体的なモチーフが与えられ、そのモチーフを画面上で構成して色彩で表現するもの。「モチーフ構成」
d)画面の中にテーマとなる文字を入れ、その文字とバランスをとりながらビジュアルを作るもの。「グラフィック表現」
入試的にはこうした形式が組み合わされて出題されることもあります。当アートスクールでは、これらをバランスよく練習していくことによって総合的に色彩表現への理解を深めつつ、様々な課題に対応できるようにしていきます。
●練習には原則としてポスターカラーやデザイナーズカラー、アクリルガッシュなどの不透明水彩を使います。まず幾何構成から始め、構成の緊張感やきれいな色の組み合わせなどを練習します。また、色の三属性や対比、ハーモニーなどの色彩理論の説明を含む演習課題にも取り組んでもらいます。こうした色彩への基礎的な理解が様々な出題形式への対応に生きて来ます。
他にも、イメージ表現における構図の研究や、にじみ・ぼかし・筆触・絵の具のマチエールを生かした絵画的な表現などの演習課題も適宜行います。
入試的には、色紙を使った色彩表現や、使用する色数を限定した課題、透明水彩や色鉛筆の使用、与えられるテーマやモチーフのバリエーションなど、様々な出題や条件に対応する必要があります。どのような出題形式であっても、安定して自分自身の色彩感覚を発揮して良い絵が描けるよう練習していきます。
●大学受験における立体構成の課題は、いくつかのパーツを構成することによって周囲の空間を取り込んだかたちを提示することで、テーマを表現します。
●他に立体的な表現として、大学の彫刻科では粘土による彫塑の課題が課せられることがありますが、彫塑とここで説明する立体構成の課題は少し考え方が異なって来ます。
「彫塑」と「立体構成」の違いは、19世紀末〜20世紀初頭のロダンなどの彫刻における量感と形態内部における動勢の表現(「彫塑」)から、20世紀以降のキュビスム、ロシア構成主義、バウハウスなど、形態を抽象化し多様な素材を用いて周囲の空間を取り込んだ作品(「立体構成」)へという、彫刻史における表現スタイルの変遷に対応するものです。
(とはいえ、入試的には「彫塑」においても空間的な構成を取り込んだ課題もあるし、「立体課題」においても粘土を使った彫塑的なアプローチを含む課題があるので、両方とも視野に入れておく必要があります。)
●立体の課題では、与えられたテーマに対してどのような形態を出すのか、素材をどのように扱うのか、限られたスペースの中でどのように動きを出すのか、どのように周囲の空間を取り込んで生かすのか、どのように緊張感を持って立たせるのか、などが問われて来ます。
主にケント紙を使って練習していきますが、それ以外にも木材、竹ひご、針金、粘土、タコ糸、スポンジ、布など、様々な素材やテーマが出題されますので、それらに柔軟に対応できる理解力、感性、技術が必要です。
当アートスクールでは、比較的簡単な形態の組み合わせから練習を始め、素材や加工の方法に慣れていきながら、上記のような立体を考える上で不可欠な要点を理解していくための課題プログラムを用意しています。
●着彩の課題は、主に国公立大の日本画専攻を受験の際の第2課題として出題されています。
主に静物モチーフなどを鉛筆で下描きした後、透明水彩絵の具を用いて彩色し描写していきます。(油絵専攻でも人物モデルや静物モチーフを不透明水彩などで着彩する入試が課される場合があります。)
「着色されたデッサン」と考えてもいいのですが、透明水彩や筆の扱いに慣れることに加えて色彩的な知識・感覚も必要です。
総合的な画力の向上という観点から、日本画専攻志望の受講生ばかりではなく、特に受験には必要なくとも練習時間に比較的余裕のある受講生には練習してみて欲しい課題です。
●他にも、油彩画、彫塑、マンガ、キャラクター、小論文、プロダクトデザイン、想定描写など、志望校の出題に対応した課題やその前提となるような基本課題を練習していきます。
受講するコマ数や学年、経験量の違いによって進め方は変わってきますが、どの課題においても、初めは基本的なことを理解してもらうためにある程度の時間をとって、そして受験が近づいてくると、徐々に時間を志望校の課題の時間に合わせて練習します。
全受講生を対象にしたデッサン模試や、推薦入試や一般入試の前には各志望校の出題を想定した課題で模擬試験を行い、採点・判定をする機会を予定しています。
しっかりと基礎固めをした上で、実践で力を発揮できるようにカリキュラムを編成・指導していきます。