関西私立美術系大学の入試は、その種類や回数が多く、複雑で分かりにくい状況になっています。総合型選抜<体験授業型>試験が主軸となっている関西私立大学の入試について解説します。 六角舎アートスクール(2025/4/23改訂)
大学、短大
●関西の私立美術系大学は、大きく分類して、京都精華大学、京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)、成安造形大学、嵯峨美術大学、神戸芸術工科大学、大阪芸術大学、京都美術工芸大学の7校あり、近畿大学、大阪成蹊大学、大手前大学、京都女子大学 にも美術・デザイン系の学部があります。また、短大では嵯峨美術短大、大阪芸術大学短期大学部、奈良芸術短大があります。
各大学共に細かなニーズに合わせた編成になっていて、従来から美術系大学に設置されていた日本画、洋画、彫刻、デザイン、工芸などの専攻の他、マンガ、キャラクター、アニメーション、映像、イラスト、フィギュア制作、メディアアートなど、国公立大にはない専攻もあります。受験生の選択の幅は広がりますが、細分化されているがゆえに大学や学科・専攻・コースの選択に迷うところもあると思います。
4種類の入試(※各大学によって入試の名称・時期・実施方法は異なっていますのでご注意ください。)
●関西私立大の入試制度は、「総合型選抜<体験授業型>試験(9月~)」、「指定校推薦型選抜/総合型選抜<実技型>試験(11月頃〜)」、「一般選抜試験(1月下旬~)」、「大学入学共通テスト利用選抜試験(1月中旬の大学入学共通テスト以降)」の4種類の入試が基本となります。その上で、「総合型選抜<体験授業型>試験」が複数回ある、「総合型選抜<実技型>試験」やそれに準じた機会が複数回ある、というように、1つの種別で数回の入試があるケースが標準になっています。
近年導入された「総合型選抜<体験授業型>試験」(旧・AO入試)は、今では主要7大学すべてが実施しています。現在では「総合型選抜<体験授業型>試験」で募集人員の半数を取る状況ですから、受験対策に出遅れてしまったり、国公立大が第一志望で関西私立大を”押さえ”にするため「総合型選抜<体験授業型>試験」で合否を決めることができない受験生には、注意が必要です。
◼️9月〜 総合型選抜<体験授業型>試験
◼️11月〜 指定校推薦型選抜/総合型選抜<実技型>試験
◼️1月〜 大学入学共通テスト利用選抜試験/一般選抜試験
総合型選抜<体験授業型>試験(旧・AO入試)
●総合型選抜<体験授業型>試験とは、体験授業やワークショップを通じて「大学が受験生を査定するだけでなく受験生も大学を査定する」という趣旨の入試制度です。早ければ9月下旬には実質的な合否が決定します。
総合型選抜<体験授業型>試験では、まずエントリーをして体験授業や面接などを受けます。大学側は入学してほしい受験生に「出願可」の通知を出しますので、入学したければ出願します。出願すればその時点で合格となり、数日後に合格通知が来ます。出願すれば専願ですので必ず進学しなければいけません。けれども、入学したくなければ「出願可」をもらっても出願しなくてよいのです。そして出願しなければ受験料も発生しません。その場合、結果として無料で体験授業やワークショップが受けられたことになります。(注:一部、エントリーの時点で受験料が必要な大学もあります。)総合型選抜<体験授業型>試験が専願になるのは出願した時点ですので、体験授業を受けるエントリーの時点で専願を気にする必要はありません。
総合型選抜<実技型>試験(旧・自己推薦入試)、一般選抜試験、大学入学共通テスト利用選抜試験(旧・センター試験利用入試)、その他
●総合型選抜<実技型>試験は11月初旬以降、一般選抜試験は1月下旬以降に実施され、どちらも実技試験が課せられます。以前は2課題の実技試験(例:デッサン+色彩)が標準でしたが、今は大阪芸大デザインなど一部を除けば、得意な1課題だけで受験できるようになっています。また、国語、英語などの学科試験があっても選択制の大学や、学科試験をはずすことができる大学もあり(注:関東系私立大では学科試験は必須)、以前に比べて受験そのものとしてはハードルは低くなる傾向になってはいます。ただ、上述のように総合型選抜<実技型>試験や一般選抜試験は募集定員が少なくなっているため、一般的に言って比較的倍率は高くなります。
●成安造形大学や嵯峨美術大学、嵯峨美術短期大学では、主に総合型選抜<実技型>試験と同時期に、合格者には学費を国公立並みにするという特典を与える入試(特待生入試/スカラシップ入試)があります。課題はデッサンのみですが、課題内容が公表されていたり(成安造形大学)、モチーフの難度、合格者定員が少ないことなどの関係もあって、しっかりと練習を積んで実力をつけておかないと難しい試験です。ただ、9月の総合型選抜<体験授業型>試験に合格した後で、合格の権利をもったまま練習を積んでチャレンジすることができるので、成安造形大学、嵯峨美術大学、嵯峨美術短期大学を志望する受験生はこの受験機会を視野に入れて練習することをお勧めします。
●大学入学共通テスト利用選抜試験は、大学入学共通テストの点数だけで合否が決まるタイプと、大学入学共通テストと実技試験の合計で合否が決まるタイプとがあります。後者の場合、特待生として成績優秀者に授業料の減免を与える大学(大阪芸術大学など)もあります。
対策
●関西私立大が第一志望の受験生は、志望校・志望科を早めに決めて、夏休み後からエントリーが開始される総合型選抜<体験授業型>試験から受験することをお勧めします。そのためには、春ごろから各大学で開催されるオープンキャンパスや各地で開催される大学説明会などに参加したり、資料などを取り寄せ、大学の雰囲気やそこでやりたいことができるかなどを調べておく必要があります。
●総合型選抜<体験授業型>試験で募集定員の半数を採り、本来メインの入試であるべき一般選抜試験では募集定員の10%程度しか採らないのが現状なので、関西私立大が第一志望の受験生は、総合型選抜<体験授業型>試験、遅くとも総合型選抜<実技型>試験で合格を決めておきたいところです。
●一方、国公立大が第一志望だが、浪人ができないなどの理由で私立大も併願する受験生は、関西私立大には総合型選抜<実技型>試験で合格できるように計画をします。その場合でも総合型選抜<体験授業型>試験にエントリーして体験授業を受けることはできますが、専願なのでそこで合格を決めることはできません。また、一般選抜試験はその時期が国公立入試の直前になるので、なるべく避けたいのです。
●上述のように、関西私立大では春から一年を通して定期的にオープンキャンパスが催されます(国公立大は6月から8月が一般的です)。体験実習ができたり教員が質問に応じてくれるコーナーもあります。志望大学や気になる大学には積極的に参加し、大学を肌で感じておきましょう。
●六角舎アートスクールでは、各大学の総合型選抜<体験授業型>試験での体験授業の内容などを踏まえ、当日自信を持って臨めるよう体験授業に関連した練習をしています。また、総合型選抜<実技型>試験や一般選抜試験において課されるデッサンや色彩、デザインなどの課題にも対応します。