イタリア美術紀行ージオット/ マサッチオ/ ピエロ・デラ・フランチェスカ

 

1)9月18日朝、スクロヴェーニ礼拝堂の中に描かれたジオットのフレスコ画を観るためにヴェネツィア・メストレから列車でパドヴァに向かいました。パドヴァは、メストレから35分くらいのところにある古くからの大学街です。
スクロヴェーニ礼拝堂の観覧は予約と観覧料の先払いが必要で、イタリアに来る前にネットで日時を予約していました。
スクロヴェーニ礼拝堂を管理している市立美術館にかなり早く着くと、受付のおじさんが、予約時間前だが定員に空きがあるから今すぐ観覧していい、と言います。本来ならば予約時間の1時間前には着いていなくてはならないので早めに行っていたのですが、時間が節約できてラッキーでした。
礼拝堂内は厳格に温度や湿度の管理がされていて、一度に観れる人数は25人程度までで、観覧時間は15分。堂内にいっぱいに描かれたジオットの絵を15分で観なければなりません。
係の人の案内に従って堂内に入ると、ジオットの豊かで柔らかい色彩が空間いっぱいに感じられます。やはり図版で見る色とは全く違うように思います。ディテールを観るために双眼鏡だけは持って入っていたのですが、結局あまり役に立ちませんでした。それよりも、堂内に溢れる柔らかい色彩を身体で感じた方が良いと思いました。
(ここは写真撮影が不可だったので内部の写真は撮っていません。)
付け加えると、この市立美術館は職員たちが皆親切で礼儀正しく、すごく気持ちよい美術館でした。

 

 

2)9月20日昼、フィレンツェ、サンタ・マリア・デル・カルミネ教会の中にあるブランカッチ礼拝堂にマサッチオとマゾリーノが描いたフレスコ画を観に行きました。ここは31年前に来たことがあるのですが、夕方だったので暗くて、壁画の一部である「楽園追放」の部分がほのかに見えた事ぐらいしか覚えていません。

 

 

ジオットが開いた新しい絵画の地平(ゴシックの形式性から、より自然な知覚をもとにしたスタイルへの移行)をマサッチオが受け継ぎ発展させた、という美術史的な重要性ばかりではなく、マサッチオの絵には人物の形態のおおらかさや彫刻的な力強さなどから来る普遍的な魅力がある様に思います。

 

 

3)9月21日昼すぎにシエナを発ち、再びバスに1時間半ほど乗って、アレッツオの聖フランチェスコ教会の中に描かれているピエロ・デラ・フランチェスカのフレスコ画「聖十字架伝説」を観に行きました。
ピエロ・デラ・フランチェスカはマサッチオの少し後の世代で、マサッチオの遠近法空間をさらに進化させました。しかし長らく忘れられ、(フェルメールなどと同じく)20世紀になってから美術史家のロベルト・ロンギらによって「再発見」された画家だということです。その明るい色彩、静かで理知的な画面を見ていると、クラシックな重厚感よりはむしろ平明でモダンな感覚があり、それもわかるような気がします。

 

 

実はこの3箇所のフレスコ画は、24年前のイタリア滞在の際にも訪れ、門前までたどり着いたものの「修復中につき観覧不可」で、後ろ髪を引かれながら引き返した思い出のあるものです。ですから今回の旅行では必ず見たい作品でした。それぞれすっかり修復されてきれいになった画面を、感慨深く観ることができました。(Y.O)

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2015年10月26日付けの投稿を転載したものです。)