六角舎アートスクールでは、潮江宏三先生(京都市立芸術大学名誉教授・前京都市美術館長)をお迎えし、「西洋美術のツボ」と題する年間6回の連続講座を開催しています。
西洋美術史の泰斗・潮江先生が、西洋美術を見て楽しむための糸口として、文字どおり「ツボ」とも言える特有のポイントに焦点を当てて、解きほぐしていく講座です。
今年春の「カラヴァッジョとカラヴァッジェスキ」に引き続き、season 3 の3回は「ヴェネツィア派」についてお話しいただきました。
第7回目:2022年10月9日(日):① ヴェネツィアの美術文化とベッリーニ一族の登場
中世以来、ビザンチン帝国との東方貿易で都市経済を形成してきたというイタリアのコムーネの中では、特殊な条件を持っていたヴェネツィアに、ジョヴァンニ・ベッリーニの登場によって、イタリア絵画の中のもう一つの流れとも言うべき画派が誕生するまでの過程を追う。
第8回目:11月6日(日):② ジョルジョーネとティツィアーノ
イタリア絵画の王道を唱道していたフィレンツェ派の画家たちが一目を置かざるを得なかったベッリーニを師とする二人の巨匠、ジョルジョーネとティツィアーノが築き上げた「直描き」の油彩画技法の意義を再考し、彼らの足跡を追う。
第9回目:12月4日(日):③ ティントレットとヴェロネーゼ
ティツィアーノから出た二人の巨匠、ティントレットとヴェロネーゼの活動の方向性の中に彼ら独自の選択の意義を再考する。
潮江先生は2012年に京都市立芸術大学を退職されましたが、その退職前の最終講義を聴講に行きました。テーマは、先生のご担当だった西洋美術史概説の授業にまつわり印象深い作品を紹介していくというものでした。その最後に紹介されたのがティツィアーノ最晩年の「ピエタ」の画像だったのですが、それを見て、それまでのティツィアーノのスタイルをかなぐり捨てたかのようなペインタリーな力強さが生み出す根源性に衝撃を受けました。この作品は、私も1984年春のヨーロッパツアー時や1990〜91年にかけての滞欧時、何度かヴェネツィアを訪れた際にアカデミア美術館で観ているはずの作品でしたが、全然記憶になく、「一体何を見ていたんだろう?」と思わされました。そこで「もし次回イタリアにいく機会があったらぜひこの作品をじっくり観てみたい!」と思いました。その後、念願かなって2015年に24年ぶりにイタリアを訪れることができ、このティツィアーノの「ピエタ」にも対面できました。下の画像はその旅行時に撮影したものです。
その他、今回の講座に関連して、そのヴェネツィア滞在時に印象的だった画像をあげておきます。
サン・マルコ広場にあるパラッツオ・ドゥカーレ(総督府)内の「大評議の間」です。壁や天井も金の額縁に入った油絵で覆い尽くされていて威圧感が半端ないです。正面には今回の講座でも紹介されていたティントレットの「天国図」が見えますが、入り口付近に立つ人物の大きさと比較するとその巨大さがわかると思います。
でも、ヴェネツィア滞在時に最も印象に残ったのは、海岸沿いや水上バスで移動している時に見た海、海洋性の気候が生み出す空のさまざまな表情、そして光そのもの、でした。こんなに魅力的な風景が身近にありながらヴェネツィア派の絵画には海景を描いたものがあまり見当たらないのが不思議でなりませんでしたが、でも、ティントレットの劇的な光の表現やヴェロネーゼの豊穣な色彩はこうしたヴェネツィアの光の中からしか生まれてこなかったんだろうな、と改めて思いました。(Y.O.)