このGW中は、春休みに引き続き、これまで積んであった本を乱読していたのですが、この「彫刻の歴史ー先史時代から現代まで」(アントニー・ゴームリー+マーティン・ゲイフォード著・東京書籍)はその1冊です。
この本は、2021年に邦訳が出版されることを知ると同時に予約して購入していました。これまでは傍に置いて図版を眺めたり所々拾い読みするくらいだったのですが、今回改めて通読してみて近年接した美術関係の本では群を抜いて素晴らしい本だと感じました。
アントニー・ゴームリーは彫刻家としては特に好きな作家だという訳ではないのですが、豊富な制作経験・鑑賞経験を独自の哲学に昇華して、古今東西の作品に縦横無尽に言及しながら、彫刻とは何か、芸術とは何かについて語る内容の深さはさすがだと思わされました。対話の相手を務める批評家のマーティン・ゲイフォードも、姉妹版(?)の「絵画の歴史ー洞窟壁画からiPadまで」(ディヴィッド・ホックニーとの共著・青幻舎)同様、アーティストの実感と経験に基づいたコメントに対して学術的な裏付けを与えたり補足するなど、良いアシストをしています。
ディヴィッド・ホックニーの本もそうだったのですが、現役のアーティストの語る芸術論が楽しいのは、先史時代の遺物も現代アートも何ら変わるところなく自由に関連づけながら同じレベルで論じるところです。それは、アーティストにとっては、作られた時代の如何にかかわらずそれがどんなものであろうと、自分に何か大きな問題を投げかけるものとして同じように力を持つものだからです。
またアントニー・ゴームリーの、同時代の同業者の作品を取り上げつつそれを意味づけ正当に評価する姿勢も素晴らしいと感じました。
この本は、アートが、ひいてはものを創造することがどのように人間の生の営みに深く関わるのかを、たくさんの美しい図版とともに解き明かしています。(Y.O.)